
離婚の成立に関する事例

離婚の成立に関する事例
【夫が行方不明でも離婚を諦めないで。DVから逃れて数十年、裁判で離婚を成立させたOさんのケース】
ご相談者Oさん
ご相談者様:Oさん(女性・会社員)
ご相談内容:夫と離婚したい
相手方:夫(行方不明)
解決方法;裁判

※案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集しております。
状況
Oさんは、数十年前、夫の暴力(DV)に耐えかね、子供を連れて家を出ました。
その後、夫への恐怖心から、離婚に向けて具体的な行動を起こせないまま長い年月が経過しました。
そんな中、Oさんは、「自分が元気なうちに、夫との関係を清算したい。」と願い、夫との離婚を考えるようになりました。
しかし、いざ夫の行方を探そうにも、夫の住民票は十数年前に役所によって「職権消除」されており、現在の住まいも連絡先も一切分からない、「行方不明」の状態でした。
どうすれば離婚できるのか、誰に相談すれば良いのか…。
途方に暮れたOさんは、行方不明の夫との離婚について、当事務所の弁護士にご依頼されました。
関連記事:【住民票が職権消除】相手の住所が不明でも訴訟できる?方法を解説
弁護士の活動
1 夫の住所の調査
弁護士は、まず夫の最後の住民票上の住所について調査しました。
すると、夫の住民票が職権消除された後に、当該住所表示の建物が再築されていることが判明しました。
そのため、夫が最後の住民票上の住所に居住し続けていることは客観的にもあり得ないといえました。
2 住所秘匿申立て
離婚裁判を提起する際、弁護士は、Oさんが過去に夫からDVを受けていたことを踏まえ、Oさんの住所について秘匿決定の申立てを行いました。
この申立てが認められたことで、Oさんの実際の住所を非公開にし、「代替住所A」という仮の住所で裁判手続きを進めることが可能となり、Oさんは安心して裁判に臨むことができました。
3 離婚調停の省略:公示送達を前提として離婚裁判の提起
夫の住民票が職権消除されていた上、Oさんはもちろん子供たちも夫の住所等を知らない状況でした。
そこで、弁護士は、離婚調停の申立てを行わず、直ちに離婚裁判を提起しました。
原則として、離婚裁判を提起する前に離婚調停の申立てが必要ですが、「事件を調停に付することが相当でないと認められるとき」には調停を前置することなく離婚裁判を提起することが可能です(家事事件手続法第257条)。
その結果、離婚裁判を提起してから一定期間経過後に離婚を認める判決がなされ、これが確定したことにより無事にOさんと夫との離婚が成立しました。
ポイント
1 調停前置との関係:行方不明の夫に対し離婚調停を申し立てる必要があるか?
離婚裁判については、原則として裁判の前に離婚調停を申し立てる必要があります(家事事件手続法257条1項)。
ただし、相手方が行方不明な場合などは、「事件を調停に付することが相当でないと認められる」(家事事件手続法257条2項ただし書)として、離婚調停を申し立てる必要がない可能性があります。
離婚調停を申し立てない場合のメリットは、①すぐに離婚裁判を提起することにより、離婚調停の申立てや調停期日に要する期間を省略でき、早期に離婚を成立させることが可能となること、②離婚調停に際し裁判所へ納める印紙や郵券が不要となるため、コストも抑えられることが挙げられます。
民事執行法110条
1 次に掲げる場合には、裁判所書記官は、申立てにより、公示送達をすることができる。
① 当事者の住所、居所その他送達をすべき場所が知れない場合
② 第百七条第一項の規定により送達をすることができない場合
③ 外国においてすべき送達について、第百八条の規定によることができず、又はこれによっても送達をすることができないと認めるべき場合
④ 第百八条の規定により外国の管轄官庁に嘱託を発した後六月を経過してもその送達を証する書面の送付がない場合
2 前項の場合において、裁判所は、訴訟の遅滞を避けるため必要があると認めるときは、申立てがないときであっても、裁判所書記官に公示送達をすべきことを命ずることができる。
3 同一の当事者に対する二回目以降の公示送達は、職権でする。ただし、第一項第四号に掲げる場合は、この限りでない。
2 「住所、氏名の秘匿制度」の活用~安全を確保しながら手続きを進める~
裁判を提起するに際し、住所等又は氏名等が当事者に知られることにより「社会生活を営むのに著しい支障を生ずるおそれがある」場合には住所等の秘匿決定の申立てをすることができます(民事訴訟法133条)。
秘匿決定が認められると当事者の住所を「代替住所A」、氏名を「代替氏名A」とした上で裁判手続を進めることが可能であるため、相手方に氏名や住所を知られることを恐れ裁判を断念するという事態を避けることが可能です。
本件では、Oさんは夫に対する恐怖心が強い状況であったため、Oさんが過去に受けたDVなどを具体的に疎明し、Oさんの住所について秘匿が認められました。
秘匿決定と離婚届の提出
離婚を認める判決が出て、判決が確定した後、離婚した事実を戸籍に反映させるために役所へ離婚届を提出する必要があります。
その際に判決書謄本や確定証明書を添付資料として提出する必要があるのですが、秘匿決定が出た場合の判決書には「代替住所A」などの記載がなされるため、判決書謄本のみでは当事者の氏名や住所を特定することができず、離婚届が受理されません。
そこで、秘匿決定が出た場合、判決書謄本、確定証明書に加え、秘匿事項届出書面謄本を取得した上、役所へ提出する必要があるため注意が必要です。
関連記事:「離婚届を提出する際に戸籍謄本は必要?その他必要な資料は?」では離婚届を提出する際に必要な資料等について解説しています。
3 「失踪宣告」の申立てで対応可能か?
配偶者の死亡により、婚姻関係は当然に解消するとされています(内田貴『民法Ⅳ 補訂版』(有斐閣、2009年)91頁参照)。
そのため、配偶者が長年行方不明となっており失踪宣告が見込まれる場合、「失踪宣告」の申立てによって婚姻関係を解消する方法も考えられます。
失踪宣告が認められると、その人は法律上死亡したものとみなされ、婚姻関係も終了します。
しかし、失踪宣告の方法により婚姻関係を解消する場合には、以下の点に注意が必要です。
・発見される可能性: 失踪宣告の手続き中に、警察への捜索願などを通じて配偶者が発見されることがあります。
・婚姻関係の復活リスク: 失踪宣告後に本人が生存していることが判明した場合、原則として婚姻関係が復活してしまう可能性があります。
・財産分与等の請求不可: 失踪宣告の申立ての中では、離婚に伴う年金分割、財産分与、慰謝料などを請求することはできません。これらを求める場合は、離婚裁判を提起すべきです。
※掲載中の解決事例は、当事務所で御依頼をお受けした事例及び当事務所に所属する弁護士が過去に取り扱った事例について、案件や依頼者様の特定ができないように内容を編集したものです。